地の果て再訪〜ランズエンド1泊旅

列車に揺られる事5時間50分。3年ぶりに英国最西端の地を訪れてきました。駅前やバスターミナルはちょいと小ぎれいになったのに駅そのものは売店が無くなり、何とも寂れた感じになっているあたりに時の流れを感じつつ早速バスにてあのユースホステルの最寄の村へ。予報ではこの日と次の日は雨ということでしたが、見事晴れましたよ。これも日ごろの行いの賜物だ。観光シーズンということで村も以前の雨がそぼ降る中人もまばらというたたずまいとは打って変わって、人と車が大量発生です。バスから降りると目の前を馬に乗った一団が。進んでいく。夏になると馬であたり一帯を回ると言うツアーがあるらしく、その後もあちこちで馬に乗った観光客を目撃しました。馬について進むと、見覚えのある景色が。ええ、例の肥やし地帯です。あの石造りの建物も見えますよ。ん、今回は肥やしの臭いがしない。ちょいと拍子抜けでありますが、そのまま進んで、ユースホステルのある集落へと下る獣道へ。前回はあたり一帯は雲が垂れ込めて、はるか先に見える海には陽が当たっているといういささか神秘的ともいえる光景でしたが、今回は一面夏の光です。

相変わらずこの辺りはのどかな所です。前にも書きましたけど、本当に宮崎映画に出てきそうな風景です。イングランドの中のほうにも丘や、そこに貼り付けたようにうねっている畑はありますが、ここいら一体、コーンウォールでポイントが高いのは丘が谷で仕切られていること、そして海と崖がえもいわれぬアクセントをつけていることでしょう。イングランドの風景は富良野辺りにちょいと似ていて、延々と平坦な所にところどころ丘があったっり、木立がパラパラと並んでいたり、という感じなんですが、この辺は箱庭のようにいろいろな物が詰まっている。オラ個人的に湖水地方辺りよりこの辺の方がよほどきれいだしいい場所だと思います。

ユースに着きますと、前回は1台も車が止まっていなかった建物の前の車寄せが6,7台の車で一杯でして、庭にはテントが張られている。これは確かに大人気だ。管理人の気のいいおばちゃん(ケイティおばちゃん)は相変わらず健在でして、家庭的な雰囲気は全く変わっていませんよ。ただ、前回に比べてただ立っているだけでも息を切らしているのがありありと分かるようになった気がするので少し減量していただいて是非お体には気をつけていただきたいんでありますが。今回はどうもケイティおばちゃんの娘と思われる、いわば2代目ケイティおばちゃんが面子に加わっていまして、これがまたケイティおばちゃんに顔がよく似てるんだ。若き日の、増量前のケイティおばちゃんはきっとこんな感じだったろうと言う雰囲気でして、気のいいところもケイティおばちゃん譲りです。今までに英国内で随分あちこちのユースホステルに泊まりましたが、これほど家庭的なところには他に当たった事がありません。

お楽しみの夕食の時間まで1時間ばかりあったので、ユースの前の沢に沿って海辺まで行ってみました。ここも以前は人っ子一人いなかったんですが、今度は途中の駐車場は埋まっていて、歩いている途中にも後ろからさらに車が来るといった具合で大盛況です。この海辺でもキャンプが出来るようでして、右の写真を撮った崖からちょいと下った岩棚にテントが貼ってありました。水を汲みに行くのに兄ちゃんが崖を下って海辺まで降りていっていましたが、うっかり足を踏み外したら火曜サスペンス劇場ですよ。それに、結構ありがちですが急に天候が悪化したら大惨事は必至でしょう。ここに来るときは天候のよしあしで旅の成否が決まるといっても過言ではない訳で。何しろ歩き回る事がここの楽しみな物ですから雨が降ったらハイそれまでよです。それはともかく、この海辺でキャンプをしたらさぞ気持ちいいだろう、命の洗濯にはもってこいだろう、というくらい居心地のいい場所でして、崖の上に座って海風と傾き始めた日にさらされながら目の前の夫婦岩のような岩礁をぼんやり見たり、ランズエンド方の崖とその先遠くに見える村落と砂浜の方を眺めやってみたりすると何というか、鬱屈した物が吹き払われるような、そんな開放感があります。

さて、30分ほど風に吹かれた後はいよいよお楽しみ、夕食でして、4割くらいはこれが楽しみで来たようなもんだ。今日の献立はチキンキエフ(鶏のカツレツの真ん中にチーズを挟んだもの)とサラダ、デザートはアイスクリームと、桃の缶詰の上に熱くした、あれは何というのでしょうか、ちょっとパリパリした、ざらめを固めたような、甘くて四角い物体を載せた物です。このデザートが相変わらず

うまい。うますぎ。

もうそれで一体僕にどうしろと、というくらいうまい。いや、別にどうもしなくてもいいんですがね。この四角い物体はそのままだと熱くてオラのような猫舌には食べられんのですが、少し放置すると隣のアイスが徐々に溶けてきて四角いのを浸していく。ここでおもむろにスプーンで四角い奴の角を削りとって半分溶けたアイスに絡めて食いますと、トレビアンでブンダバーでハラショーなめくるめく美食の世界が待っておりますよ。いや、すばらしい。食事が済むと何もやる事も無いので、家族連れ(今回は宿泊客の殆どが家族連れでした)がトランプをしたりしている中で雑誌を読んだり色々とネタを考えたりしておりますと、窓の外には海に沈む夕日が見えてまいりましたな。雲の底が茜色に染まっていい景色だ。折角なんでもう一度海へ行こうかと思ったら道を間違えまして、結局村へ行く方の道に出ちまった。右がその様子ですが、このときには夕暮れの一番いい所はもう過ぎてしまっていて、シャッターチャンスを逃してしまいました。

翌朝、標準的な英国の朝飯(ベーコン、豆、卵)の後、いよいよランズエンドへいざ出立でありますよ。ユースの前の沢から海の方へ続く獣道はそのままランズエンドまで続いているんでありますが、前回は天候があまりに悪すぎてここを無理に歩くと遭難しかねないと言うので泣く泣く途中までバスで行って、そこから歩くという妥協をしなくてはならなかったのですが、今回はここから歩きます。

いや、これはすごいですよ。ちょっと踏み外したら海へ落ちます。前回、霧が深い中でここを歩くと言う無謀な事をしなかったのは正解でした。この獣道っちゅうのは正式なトレッキングコースなんですが、人一人歩くのがやっとという幅。アップダウンがかなり激しく、途中でちょっとした岩登りをしなくてはならない所もあり、大きな荷物などあった日にはとても歩ける代物ではありません。

辺りは人は勿論、家畜もいない。途中で柵で仕切られた放牧地を通るのですが、肥やしが落ちている他は動物の気配も無く、波の音だけがしています。コーンウォールってのは妖精が出るなんていう伝説が多い所ですが、これならそういう話もうなずけるという雰囲気が漂っています。所々に廃坑の石積みが草に埋もれて立っていたりする、もしこの上にコダマみたいなのが座っていても全く驚きませんな。

道は崖を上ったり降りたりしながら続いているんですが、崖の上に上ると下の写真のような、何ともファンシーな色合いの原っぱのようになっています。紫色はヒースっていう奴でしょうか。この写真には写っていませんが、他にも白や黄色の花がちりばめられている所もあります。花、といってもちょっと見には花というより藪に色がついているように見えるので何となく奇妙な感じです。

前回バスを降りた村へ通じる砂浜を横切り、ちょいと燃料を補給していよいよ最後の区間へ突入です。この村の前後では周囲の様子はまったく違います。村の先は完全な観光客向けのゆるい道でして、崖の頂上をアップダウンも無く進んでいく。大概の人はこの村まで車で来て、崖のふもとの駐車場に止めて歩くようです。村から先の崖の上は短い草が生えているだけで、先ほどのような廃坑は無くヒース(らしき物)の茂みもまばらでして、全くもって発泡スチロールにパウダーをかけて作ったジオラマのようです。

村に着くまではうす曇というか、曇りに近い晴れだったのですが、村を出た頃から本晴れになってきましたな。実に望ましい天気の運びでして、これも去年凶運をすべて使い切った事の表れかと思ってみたりするんでありますが。まぁそれにしても夏に来ると海の色が全く違います。普段からこの辺の海の色はちょっと緑がかったような色なんですが、こうやって本晴れになるととんでもなく深い色になる。

村から崖を上がってしばらく行きますと、前方に難破船が見えてきました。これは確か去年の夏に嵐で座礁して、それ以来ずっと放置プレイされているんでありまして、周囲の全くといっていいくらい人工物の無い風景の中で何ともシュールな様を晒しています。この座礁した場所はちょっとした入り江でして、崖が他の場所のように垂直ではなく、降りようと思えば降りられる。実際降りる輩がいるらしく、難破船に近寄るべからずと言う立て札が立っています。しかし、降りるったって、斜度は明らかに40度くらいありまして、足が滑ったり、突如足元の岩が崩れたらこれまた火曜サスペンス劇場です。よくやりますわ、本当に。

ついに地上最初にして最後の家が見えまして、いよいよ到着です。前回は売店も閉まって人気も無かったこの家も今日は観光客で大賑わいだ。寂れたテーマパークのようだったランズエンド周辺の土産物屋だの、なんだかよく分からんアトラクションだのも見違えるような活気です。さて、折角来たのでおなじみの標識を見ておこうか、と思ったら何だか様子が違う。前回の写真と比べると分かりますが、標識の周りが柵で囲まれている。最初は標識の後ろの崖から海に落ちる輩がいるから近づけないようにしたのかと思ったら、柵は途切れていて、その脇に確か以前は無かった小屋が建っている。ここで金を払うと柵の中に入れて、写真屋が写真を撮ってくれるっていうんですよ。

何を言っとるんだね、チミ達は?

なんてみみっちい商売なんだ。さもしすぎる。実際問題として柵の中に入らんでも標識をバックに写真を撮る事は出来るんでして、わざわざ銭を払って中へ入ろうという輩は殆どいませんよ。何やら立て看板が立っていたんで読んでみると、この看板は向かいにある写真屋の管理する言ってみれば私有物なので撮影には銭を取る事になっていると抜かしている。3年前はそんな事はおくびにも出していなかったくせに、どうせ写真屋が代替わりしたか何かで、それまで誰もやっていなかったこういうせせこましい商売をやる事を考え付いて実行に移したんじゃろう。まったく、ゲイツじゃあるまいし。ははぁ、その為に看板の腕木が増えたのね。日付の上の、空欄になっている所は銭を払うと自分の名前か何かが入れられるようです。むぅ、何だかすっかり安い観光地に成り下がっちまって、悲しいねぇ。

さて、今回は特に目立った面白話も無くこれでほぼ終わりです。オフシーズンには日に1往復しかないペンザンスまでのバスも、この時期は20分に一本あるという有難い限りのアクセスのよさです。しかし、この辺はシーズンになるともう大変なのね。この辺りの道は乗用車がすれ違うのがやっとという道幅の所が多いんでありますが、オフシーズンなら車の数も高が知れているので大して問題にならない。しかしこの時期はランズエンド方へ向かう車で渋滞していて、そこにトラクターやら馬やらが入ってくるので大混乱でありまして、運ちゃんの技量が試されます。これは確実に当たるんじゃ、という場面に数回出くわして冷や冷やしているうちに、ふとかぎ覚えのある臭いが。ええ

お待たせしました(いや、誰も待っちゃいないんですが)。今回もやはり最後に来ましたよ、アレが。今回もすごい臭いです。ウンチョス臭いというのを通り過ぎて何かまろやかな、ちょいとすっぱい感じの究極の域にまで達した肥やしの臭いです。粘膜がヒリヒリしそうです。これこそ田舎の醍醐味といってもいいでしょう。特にこの強烈な肥やしはこの地域の名物といっても過言ではないかと。1泊2日の強行軍ながら、これで十分に満喫する事が出来ましたわ。いや臭いわ。

今回は中途半端な観光ガイドのような内容になってしまった訳ですが、最後も敢えて月並みなコメントで締めたいと思います。ここは恐らく北ウェールズと並んで全英で最も景色のいい場所のひとつでしょう。渡英する機会があれば他の所に行く時間を切り詰めてでも行く価値があると思います。オラそれこそ初日に崖の上に座りながら、将来もし新婚旅行なんて物に行く機会がありゃここに来たいと思ったりしちまいましたよ。ただ、ここにも徐々に観光地化の波が迫っているようなので、行ってみたいと思っている方はお早めに行く事をお勧めします。

<了>