書評 「星界の戦旗V」

 簡潔に言って、今回は「戦旗」シリーズになってからの3冊の中で一番結構な出来であろう。これまでの2冊は、その前の「紋章」シリーズ3冊が成功したから出版社側のおだてに乗って書いてしまいました、という匂いがぷんぷんしていた。作者自身でさえ話を一体どういう風に持っていったものか考えあぐねているというのがありありと見て取れたのである。おかげでどの話もバックグラウンドをくどくど説明してみたり、本筋とは関係なさそうな人物や出来事をぶち込んでみたり、いろいろ試行錯誤をしているのが感じられた。というかそもそも「本筋」がないのである。いったいこの話はこれからどういう方向へ向かうのか、このエピソードが語られることはこの先話が続いていく上でどういう意味があるのかが全く理解できない。

それに引き換え今回は話の大局と、この話の中で語られるエピソードはきわめて密接に関連しており、エピソードがきちんと目的をもって語られているという点でこれまでに比べて格段の進歩を見せたといえよう。第一にジントとラフィールの間に恋愛があることがはっきり(といって差し支えないだろう)示された。前回第2巻において示唆されてはいたのだが、そこではあくまで示唆にとどまっていたように思う。2巻においてもう少しはっきりとした形で示してもよかったのではなかろうか。第2に、ジントは故郷を捨てる(オチが途中で読め気味だったが)。これで前シリーズの最初から続いていた(が余り正面には出てこなかった)葛藤に一つの決着がついた。後ろの橋をボーボー燃やしたのである。

が、である。そうは言ってみたもののこの話にはやはり本筋がない。なんと言うかどちらかというとオムニバスドラマ、短編集である。今回の第3巻の意義というのはこれまでのダラダラした部分のけりをつけたことである。しかし結局この後の展開に対しては何らの展望も与えていない。ジントは故郷を捨てて、いまや恋人と意識しつつあるラフィールと一緒に再び戦場へ戻った。それは結構。だがしかしこれからどうするのか。結局ゼロからこの先の話を引っ張り出さなくてはならない。確かにこのシリーズの世界観は非常に奥が深く、それをさらに深めて語っていくことも出来るであろう(今回の巻の後書きを読んで自分はそれがこれから先森岡氏がやろうとしていることだと理解した)。が、忘れてはいけないのはこれは小説だということである。設定を作り出したりそれを説明するために話を作られては今までの繰り返しになってしまう。もう少し話全体の構想というものがしっかり出来てから話を書き進めてもらいたいものである。今の書きながら考え考えては書く状態ではこの話はいつか彷徨えるオランダ人になってミステリーゾーンのかなたに消えていくだけである(率直に言ってこの話は2巻で立ち消えになるのだろうと思っていた)。

この話は非常に魅力的であり、発展の可能性を秘めていると思うだけに今の状態は非常に残念としかいいようがない。ともかくもっと話の筋というものを確立する努力をして欲しい。

「星界の戦旗V 家族の食卓」 森岡浩之著 2001年刊。 早川文庫JA モ 1 6

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